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黒い兄弟(上)

リザ・テツナー 著/酒寄進一
黒い兄弟(上)
  定価(本体1,800円+税)
判型: A5判
ページ数: 360頁
ISBN: 978-4-7515-2124-3
NDC: 943
初版: 2002年9月
対象: 小学校中学年〜中学生
品切れ
煙突掃除の少年たちの友情を描いた不朽の名作!けなげに生きる秘密結社(黒い兄弟)の仲間たちの、波乱万丈の物語。


黒い兄弟 上下巻 アニメ世界名作劇場「ロミオと青い空」原作本

『黒い兄弟』下巻の詳細はこちら

「煙突掃除!煙突掃除をいたします!」

食事もろくに与えられず、服はぼろぼろ、はだしで冬のミラノの街をゆく…。
つらい仕事とわかっていても、この時代、
地方から売られてきた少年たちにほかに生きる道はなかった。


〜目 次〜
第一部 ほお傷の男
一 ジョルジョのふるさと
  二 ワシとアナグマと冷害
  三 日照り、山火事、母さんのけが
  四 つらい別れ
  五 友との出会い
  六 船の転ぷく
第二部 売られた子どもたち
  一 地下室までの長い旅
  二 子どもの売り買い
  三 「スパッツァカミーノ!(えんとつそうじ)スパッツァカミーノ!(えんとつそうじ)」
  四 ぼくは泥棒じゃない
  五 「黒い兄弟」の仲間たち


 ●読者のみなさんへ

 スイス国立図書館の古い記録のなかから、わたしはある変わった報告を見つけました。それは『小さなスイスの奴隷たち』という題のものでした。昔、ティチーノ地方の山奥に住む貧しい農夫たちは、八歳から十五歳になる自分の子どもたちをミラノの煙突掃除夫に売っていたことがあるというのです。
 その報告書には、こう書かれていました。
「子どもたちはぼろをまとい、多くは裸足のままで、たとえそまつな靴をはいていても靴下まではいている子はいなかった。子どもたちは寒さにふるえながら、食べる物もろくにもらえず『煙突掃除!煙突掃除!』と声をからして一日中、歩きまわらなければならなかった。売られた子どもたちは、まるで動物のように小船のなかにつめこまれ、ロカルノからマジョーレ湖の対岸のアローナへと運ばれた。そんな船の一せきが最近カンノビオとカネロのあいだで転ぷくし、十六人の子どもたちが溺死した」
 この古い記録から、わたしはジョルジョとその仲間たちのことを知りました。小さくて器用なばかりに、下から煙突にもぐりこんで屋根までのぼり、素手で煤をかき落とさなければならなかった子どもたち。その、手に汗にぎる物語を、わたしはみなさんにお伝えしたいと思います。
 物語は百年以上も昔にさかのぼります。いまでは小鳥をつかまえるのに、とりもち(・・・・)を使う子どもはいません。ワシもめっきり少なくなりました。親から子どもを買う煙突掃除の親方もいません。生きたほうきのかわりに、親方たちは針金の長いブラシを使っています。
 でもスイスにはまだ、いうことをきかない子どもがいると、こんなことをいっておどかすお父さんやお母さんがいます。「いいかい、黒い男にいってすぐにつれてってもらうよ」
 なぜこのようなことをいうのか、知っている人はもういないようですが、わたしたちの主人公、ジョルジョはこのことをいやというほど知っていました。どうかみなさん、つらい生活にくじけず勇気をもって生きたジョルジョたちの友だちになってください。たがいに手をとりあって助けあう、気のいいジョルジョたちの仲間になってください。

リザ・テツナー


【著者紹介】
著者:リザ・テツナー(1894〜1963)
1894年、ドイツ東部に生まれる。
1933年、ナチスの政権掌握とともにスイスに亡命。
1963年に亡くなるまで、『黒い兄弟』の舞台になっているルガーノ近郊で創作活動に従事した。
代表作である『黒い兄弟』は、1941年に出版されて以来、ヨーロッパ各地で翻訳出版、テレビドラマ化され、子どもたちの圧倒的人気を呼んだ。
訳者:酒寄進一(さかより しんいち)
1958年、茨城県に生まれる。
上智大学、ケルン大学、ミュンスター大学に学び、新潟大学講師を経て、和光大学表現文化学科教授。現代ドイツ児童文学の研究と紹介を行なっている。
訳書に、ラフィク・シャミ『蝿の乳しぼり』(西村書店)、ラルフ・イーザウ『ネシャン・サーガ(全3巻)』(あすなろ書房)など多数。

カバーイラスト:佐竹美保
本文イラスト:エミール・ズビンデン
地図:相澤裕美

【訳者あとがきより抜粋】
 『黒い兄弟』は、いまを去る百五十年以上前、西暦一八三〇年ごろのスイスとイタリアを舞台にした、勇気と友情の物語です。貧しい農家の子で、毎日畑仕事で明け暮れる主人公のジョルジョ、両親をなくし、財産を親戚にうばわれ、そのうえ命まで狙われたアルフレドとビアンカの兄妹、そして貧しい家の子を煙突掃除の親方に売り飛ばす人買い。現代のわたしたちから見ると信じられないことばかり書かれていますが、かつて、ほんとうにこのような残酷な大人がいて、哀れな子どもがいたのです。
 それに比べると、現代日本の子どもは恵まれているといえるでしょう。物心ついたころには保育園や幼稚園に入園、つづいて小学校、中学校。親が幼い子どもに仕事をさせようとしたりしたら親は社会の非難をあびるでしょうし、子どもは働かずしてお小遣いやお年玉をもらって好きなものが買えます。しかしこんな恵まれた環境になったのは、何千年という人類の歴史の中でごく最近のことなのです。昔は「七つまでは神のうち」といって、七つになるまでは仕事が免除されていましたが、それからは大人と子どもの区別なく生きるために働かなくてはなりませんでした。「白雪姫」がまま母に追われ、森の小人たちのもとで家事をしながら暮らしはじめたのも七つのときです。
 こういうふうに書くと、ただのおとぎ話だ、ほんとうのことだとしても過去の出来事じゃないかと思う人がいるかもしれません。けれども、生きるために親が子を売る地域は現代の地球にもまだ存在していますし、軍隊に子どもをかり出す国まであります。いまこの瞬間にも地球のどこかで人買いに売られ、主人公ジョルジョと同じような境遇に置かれている子どもがいるはずなのです。ジョルジョとその仲間たちは、逆境をなんとか乗り越えることができました。もちろんかなりの好運に恵まれたわけですが、もしジョルジョたちの勇気とそれをささえる友情がなかったら、せっかくの好運もみすみす逃してしまったかも知れません。
 わたしはさきほど、日本人の子ども時代は恵まれていると書きましたが、実をいうと物が豊かになっただけにすぎないような、さびしい気持ちがすることもあります。たしかに人買いに子どもを売る親などもういないでしょう。しかし現代の日本では、ぬるま湯のような安穏とした平和にどっぷりとつかって、生きることへの活力や勇気は失っている子どもや大人が増えているのではないでしょうか。勇気と友情、それは現代人に最も欠けているものの一つであるように思えてなりません。
  『黒い兄弟』は一九四一年にスイスで出版されました。これがどういう年か、みなさんはご存じですか? ヨーロッパは一九三九年から一九四五年まで第二次世界大戦の渦中にありました、そのなかでスイスは、独立中立を保ちつづけました。
 この本を書いたテツナーは一八九四年、ドイツで生まれ、昔話の語り手として知られていた人ですが、一九三三年、ドイツがヒトラー率いるナチスの独裁国家になり、自由と平和を望む人々がつぎつぎと弾圧されていった時代に、勇気をもってナチスに抵抗し、家も財産も失ってスイスに亡命しました。そのとき、志を同じくする友の友情がなかったら、明日の生活にも事欠く状況だったといいます。友情に支えられ、勇気と信念をもってつづけた亡命生活、その約八年にわたる苦しい体験から生まれたのが、この『黒い兄弟』なのです。
 勇気と友情を讃える波乱万丈のこの物語に、生半可なヒューマニズムなど通用しない線の太さが感じられるのはそのせいでしょうか?

 本書は、一九八八年にベネッセコーポレーションより刊行されましたが、このほど、あすなろ書房から再刊されました。
ニ〇〇ニ年九月 酒寄進一


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