「すごい!」という言葉にはたくさんの感情がつまっています。カッコいーい。偉いなあ。驚いた。信じられない。賢いな。面白い。でっかい。きれい……。「すごい!」が口から飛び出すと、なぜか胸は高鳴り、体温が上がり、無性に嬉しくなってきて、そしてあなたの頭の中でさまざまな空想がグルグル回り始めることでしょう。 この本に収録されているそれぞれの物語を読み終わったあと、「すごーい」とつぶやき、それからお風呂に入り、あるいはお手洗いに行って、一人静かにボオーッと、今、読んだ物語について考えてみてください。台所で料理を作るお母さんの傍らに立ち、ソーセージの焼き上がるのを待ちながら、あるいは三日月の夜、空を見上げながら杜子春の心持ちに思いを馳せながら……。まもなく、あら不思議。きっと物語の続きが、今度はあなた自身が登場する新しい物語があらあらあらと、生まれてくるはずです。そしてその物語こそ、あなたにとって格別の、大人になっても忘れられない「すごい話」になるはずです。
〔阿川佐和子〕